シングルマザーの就労を支援するNPO『はぴシェア』さんを取材しました
シンママライフ編集部です。
みなさんは『はぴシェア』という団体を知っていますか?
『はぴシェア』はシングルマザーを対象とした、就職・転職支援のNPOです。女性の就職・転職のサポートをする団体は数多くありますが『はぴシェア』は業界で初めて“シングルマザー”に特化して活動を行っています。今回は代表の秋田文子さんに団体の活動のこと、シングルマザーの現状、そしてシングルマザーが働くとはどういうことなのかお話を聞いてみました。
『はぴシェア』をはじめたきっかけは自分自身の体験
私は香港で4年間仕事をしていた経験があります。当時はまだ小さな子どもが3人いたので完全なワーキングマザーですね。香港は女性既婚者の就労率がものすごく高く、家事はほとんどが外注という文化だったので子どもがいても働きやすい環境でした。しかし離婚することになって日本に戻った時に、子どもがいるということが日本では就職の際にとても不利だということに気付かされました。就職相談のために自治体の窓口に行っても「3人も子どもがいて実家暮らしなら当面働かなくてもいいね」というように、あまり真剣に取り合ってもらえませんでした。完全に向こう側の思い込みなんですけどね。実際シングルマザーにとって就職は言ってしまえば命綱です。女性が働くことを希望するのとシングルマザーが働くことを希望するのとではわけが違います。私は自分が就職することに切実だったにも関わらず、自治体が、さらに言うと日本という国がシングルマザーの就職に対して理解に乏しく開かれていないと感じたので、自分で支援窓口をつくろうと思いました。
『はぴシェア』の活動の柱
私たちの活動は
・就労支援事業
・子育て支援事業
・情報発信事業
の3つを柱としています。
就労支援事業では『はぴシェア』のサイトにてシングルマザーの就労希望者と企業のマッチングを行っていますが、それに伴う応募書類の作成や面接までサポートしています。子育て支援事業では、自治体と組んでシングルマザーのコミュニティ形成の支援や親子交流イベントの開催を行っています。そして、情報発信事業では『はぴシェア』のサイト運営(登録会員5,000名)及びメールマガジンの発行を行っています。
シングルマザーの“3ない”―「父がいない」「時間がない」「お金がない」
シングルマザーの悩みは「父がいない」「時間がない」「お金がない」の3つに要約されると言ってもいいでしょう。私たちはこれを“3ない”と呼んでいますが、結論から言うとどれも本当は必要ないのです。え?と思いますよね(笑)子どもにとって必要なのは安心・安全に過ごせる環境であって、自分が認められているという充足感。父がいなくても、お金がなくても、少しの時間があればそれは可能なのです。私がよく提案するのはきちん目を見て話すこと。そうすると子どもは「自分と向かい合ってくれているんだ」と実感でき満たされるのです。でも思春期になってくるとなかなか難しいですよね。そのような時期は横に並んで何か同じことをする、例えばご飯の支度を一緒にするなどでもいいんです。旅行に行ったり娯楽施設に連れて行ったりしなくても、毎日のコミュニケーションの質を上げることで十分に良い関係が築けると思っています。
悩みはシングルマザーのライフステージによってそれぞれ違う
シングルマザーにはもうすぐ離婚をすることになる「これから層」、離婚したばかりの「なりたて層」、離婚してしばらく経っている「ベテラン層」がいて、悩みもそれぞれに違います。「これから層」は離婚調停に際しての親権や養育費の取り決めに関する悩み、「なりたて層」は就労に関する悩みとこれからのキャリア形成の話、そして「べテラン層」は子どもが大きくなり進学費用がかさんでくるので、その工面の悩みですね。層によってアドバイスも変わってくるのですが、私は9歳までは「子ども優先の働き方をして下さい」と言うようにしています。子どもが小さい時に残業や休日出勤などもあるような正社員として働くと、急な発熱や学校行事などに対応できなくなります。なので、このような時期は割り切って、パートタイムや業務委託のような就労形態にするという考え方もあります。そして子どもがある程度手を離れたタイミングで、腰を据えてキャリアを形成していけばよいと思っています。
養育費の認知が高まるにつれて、就労意識も変わってきた
離婚をして元配偶者から養育費をもらっているシングルマザーは実質20%くらいです。少ないと思うかもしれませんが、これでも昔よりは上がってきたのですよ。養育費の支払いに関しては法整備も少しずつ進んできているので、今後はもっと支払いが実行されるようになってくると思います。そうなってくると、シングルマザーの仕事に対する意識も変わってくるかもしれません。これまでは生活のために職種を問わず少しでも時給の良い仕事を探さなくてはと思っていたのが、今後は長期的なビジョンを持ってキャリア形成のためあるいは自己実現のために希望を持って仕事を探せるようになる状況が生まれてきます。これは大きな進歩だと思いますよ。
これからは技能職の時代。資格取得制度も自治体ごとに充実している
手に職とはよく言いますが、これからの時代を考えたとき、明らかに何らかの技能を持っていることは大きなアドバンテージになります。私が特に勧めるのは30代より下であればICT分野でのエンジニア、それより上の世代であれば福祉関連の資格です。IT分野はまだ成長途上でこれからも確実に需要がありますし、頭が柔らかい若い世代であれば難なくチャレンジできると思います。福祉関連は慢性的な人手不足で今後もその状況は続くと思うので、資格をもっていれば就職に困ることはありませんね。これから資格を取得しようと思っているシングルマザーには高等職業訓練促進給付金という制度があります。これは「母子家庭の母又は父子家庭の父が、看護師や介護福祉士・保育士等の国家資格取得のため1年以上養成機関で修業する場合に、修業期間中の生活費の負担軽減のために給付金が支給される」というものです。対象の資格は自治体によって異なりますが、看護師・准看護師・介護福祉士・保育士・理学療法士・作業療法士・保健師・助産師・理容師・美容師・歯科衛生士・製菓衛生師・調理師等があります。この制度は意外と知られていないのですが、シングルマザーにとってはとてもありがたい優れた制度ですので、是非利用を検討して下さい。
情報を与えるだけでは不十分。その後の行動までフォロー
シングルマザーのサポート制度はたくさんありますが、自分から情報を取りにいかない限り全部を知ることはありません。先ほど申し上げた高等職業訓練促進給付金もそうですが、他にもわかりやすい例で言うと住宅手当も自治体によって変わります。必要な情報を知っていると、それだけ行動の選択肢は増えるものです。しかし、ただ知っていることと行動に移すことは大きく違いますよね。シングルマザーは多忙で、心身共に疲れてしまっている場合もあるので、なかなか一歩を踏み出せないものです。その背中を押すのが私たちの仕事だと思っています。特に就労に関しては自分に自信のない人やキャリアが不十分な人には、履歴書や職務経歴書の作成サポート、また面接の不安に対しては専門のスタッフがアドバイスもいたします。私たちはシングルマザーが前に進む勇気を具体的なアクションによって後押しします。
相談員の育成にも注力。「また会いたい」と思ってもらえる相談員になる
『はぴシェア』では、スタッフである相談員の育成にも力を入れています。私は自分がシングルマザーになりたての頃に、自治体の窓口に行って苦い思いをした経験があります。必要な情報を与えてくれない、親身になってくれない、相手の思い込みで話が進んでしまうなどいろいろと不満がありました。そのような思いをさせないように、相談員教育を徹底しています。例えばサポート制度の情報提供にしても、相談に来たシングルマザーがその対象ではないと判断したとしても「必要ないかもしれませんが、一応説明させていただきますね」と断った上で、一通り説明するようにしています。また就労以外の生活全般のことも相談に乗るようにしています。シングルマザーは不安も多いので、少しでもリラックスしていただいて、就労意欲を高めるように働きかけています。そして、相談に訪れたシングルマザーに「元気が出た。また話しに来たい」と思ってもらえるような相談員になることを目標としています。
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シングルマザーを取り巻く状況は少しずつ改善されつつあります。その背景には行政による法の整備やサポート制度の充実などだけではなく、秋田さんのような個人の計り知れない努力も大きく影響しているのですね。これからも精力的な活動を期待しています!今日はありがとうございました。